【書籍】メディアモンスター、誰が黒川紀章を殺したのか?

6.黒川本

「メディアモンスター、誰が黒川紀章を殺したのか?」/ 曲沼美恵/草思社/2015年4月15日/2700円

 

黒川紀章氏は、建築家というより、芸術家、思想家としてのイメージがある。

本人は、博士号を取得していないが、「社会工学者」であれば、取っていたと豪語する。

 

 

 

 

大学院在学中、まだ具体的な構造物が完成する前から、オフィスを立ち上げ、メディアに登壇。

以降、注目を集めつつ、晩年に都知事選に立候補するなど、常に脚光を浴び続ける。

 

「下剋上」「仕事の鬼」。「伝統と体制への挑戦」。

気が付けば、自らも大御所になり、煙たがれる存在に。

仕事一筋に、部下への言動は冷淡と称されたが、いつまでも子供のまま、奇想天外に。

ユーザー(大衆)の懐に飛び込んだ。

 

30年前の概念が、今を生きる。

師匠の丹下健三が背骨のある構造物、日本列島の設計を目指したのに対し、

「ノマド」「(生物学的な)共生」を早くから提唱。

時代は、まだ、その遺言に追いついていない。

 

誰が、黒川紀章を引き継ぐのか。

建築家は、姿を消すのか。

東京オリンピックの誘致に反対し、遷都による東京の再生を描いていた黒川紀章だが、

2020年の東京をどう見つめているのか。

春の嵐の東京。610ページの対策を読み終わり、感動すら覚え、武者震いした。

 

———————————-

 

「上の上」の世代の、60年~80年を知ることにより、

90年~2000年代に関わった様々な仕事、出会った人物の過去を振り返ることが出来た。

ああ、政界・財界の、あの人は、過去のあの業績があり、あの発言をしていたのか。

 

読んでいて、似ている部分があるとも感じた。

僕は、自他認める「じじい殺し」だったが、気に入られる「ツボ」があった。

「場」や「空気」を読まない。いわゆる「嫌われ覚悟」「誤解覚悟」で「一期一会」を目指す。

誤解されても良いので、「真の友人」、「真の師匠」を得ようとした。

誰もが怖がる「仕事師」「鬼」は、寂しく、その懐に飛び込むには、下手な動作は嫌われ、見透かされる。

 

日々の仕草でも、同じことをしていた。パスポートのサインは、漢字を横にした。

真似したのではなく、中学生の頃にやっていたので、同時期の発案かもしれない。

(もっとも、将来偉くなるからと自分で勝手に決めて、授業中に崩し文字をデザインしていたが、

もっぱらクレジットカードに署名するだけである)(笑い)

 

オフィスの回し方。「卒業」の概念で、面倒を見る…。

書生を経験し、研究室を飛び出すと、ああいう発想になるんだろうとも思った。

黒川紀章が関わったあの筑波万博の、あのパビリオンを徘徊し、僕は、自分の大学院での進路に悩んでいた。

 

思わぬ成果もあった。

メタボリズムの形成過程。

大阪万博、愛知万博、都庁コンペでの葛藤。

 

小さなオフィスから、だんだんと組織が拡大するなかで、大所帯を回す「ワザ」。

社員は、部下ではなく、お弟子さんであるところ。

45才を越える頃、進路に悩み、次の階段を上るために、挑む壁は何か。

晩年、選挙活動での奇抜な選挙カー、派手な立ち振る舞い。

 

マクルーハンの解説。

建築やデザイン、都市形成を考えるものだけでなく、

メディアやコミュニケーション、ICTやウェブデザインのプロにも薦めたい。

自らの仕事、生活、人生に向き合うための、永久保存の一冊であり、アナログ(紙)で読みたい黒川紀章と対話すべし。

 


トラックバックURL: http://linsbar.com/e2/wp-trackback.php?p=1214