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こちら情報局


「言いたい放談」
『東京新聞』
04年01月16日付
こちら情報局

あれから9年

 SARSに、米国BSEに、鳥インフルエンザ。今年もリスクマネジメントがメディアをにぎわせる。そんななか、阪神淡路大震災から9年目の「あの日」を迎えた。
 
 95年1月17日。早朝の地震発生と震度を伝えるテロップの様子がおかしい。なかなか確定しないのだ。
 
 筆者は、リスクマネジメントを専門の1つとする。昨年末にも「危機に強い会社をつくる〜現代リスクの基礎知識」(日経BP社)を上梓したが、そうした経験から、当時も、とっさに大きな地震を予感し、フル稼働を始めた。
 
 会社にとりあえず駆けつけ、電話を掛けまくり、把握した事態をファックスで送信することから始めた。当時はまだ、インターネットの黎明期だったので、アナログで出来ることから手をつけたのだ。
 
 上場企業への調整は広告会社の知人のツテを頼り、彼の持っている一斉ファックスにボランティア情報、現地情報を流した。
 
 そのうち、ボランティアで手伝いたいという申し出が増え始め、企業のみならず、社員が個人の責任で、休日を利用してのボランティアをしたいとの問い合わせも増えた。
 
 義捐金を贈りたいという善意ある国民の電話にパンク寸前の医療団体に替わり、企業からの大口募金のための回線を請け負ったりもした。
 
 また、受験生のために寮の開放をお願いしたところ、快く引き受け、工場のバスで受験生を大学まで送迎する企業もあった。
 
 あの頃を境に、ボランティアという新しいフィールドが発芽し、市民権を得たようだ。ボランティアが社会を循環させ、新陳代謝させる上では大切な資源であることを再認識させられた。
 
 あれから9年。刻まれた時の分だけ、私達は成長し、豊かなコミュニティを再構築できたのだろうか。
 
 成人式のお祝いで実家に戻り、被害にあった若者も少なくなかった。今年もまた、成人式で暴走する若者、それを野次馬的に中継し、カメラを回すメディアを見るたびに心が痛む。