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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
00年1月21日付
こちら情報局

冷静と情熱のあいだ

 標題は、昨年9月に出版され、ちょっとしたブームになっている恋愛小説である。こうしたジャンルはあまり積極的に読む方ではなく、企画の妙とでも言うのだろうか、そのプロセスに賛同し読み始めた。が、正月の間にすっかりはまり、いわゆる一気読みという奴をやってしまった。

 何が凄いかと言えば、同書には、同名タイトルで二冊の書籍が存在するということだ。男性の心の描写と女性のそれを別々に記述し、まとめている点だ。男性側は「Blu(ブリュ、青)」と呼ばれ、辻仁成氏により書き進められ、一方女性側は「Rosso(ロッソ、赤)」と呼ばれ、江國香織氏による。

 月刊誌に連載されていた当時は一章ずつ交互に発表する方式を採用し、赤が先行、青が続いた。

 それが書籍では別々に出版されたため、青だけ単独で読む、或いは赤だけを読む、さらには赤・青交互に読む、どちらか一方を一気に読み、もう一つに進むという幾通りの読み方も出来る。

 また、男性と女性の生活をそれぞれの内面から論じながらストーリーが展開するため、読み手の経験や性差によって捉え方が違ってくる。

 さて、物語の舞台はイタリアのミラノとフィレンツェ。東京の成城大学の同級生は、ともに帰国子女なのだが、ある事件をきっかけに別れる。お互いが別々の人生を歩み始めたが、漠然と約束していた二〇〇〇年五月二十五日のフィレンツェ・ドゥオモでの再会に向かい、それぞれが駒を進める...。

 実は昨年夏にそうとは知らずにフィレンツエを訪れ、勝手に盛り上がっている男女を前に不思議に思っていたのだが、きっと小説の影響もあったのだろう。今年五月のフィレンツェに、何処かのテレビ局がクルーを派遣するのではと密かに期待している。