トップへ


こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年6月5日付
こちら情報局

 カズ

 噂されたサッカーの三浦知良選手がワールドカップの最終メンバーから外された。「やはり」と思うか、「連れていけば」と思うかは人生色々。監督さんも大変だ。勝てば官軍だが、引き分けたとしても、世間では『カズだ、やはりカズを出せ』との批判が強くなろう。

 岡田監督(通称岡ちゃん)にしてみれば、私情を挟む余地無し。対戦相手を分析し、日本代表チームの戦略シナリオを幾つか用意し、トータル・パフォーマンスを最大に持っていくための「最終メンバー」を決定した。岡ちゃんは、ゲームに勝つためにはどれだけの「リスク」を保有すべきかを相当練ったに違いない。マスコミを含む外野の声には耳を傾けず、最終的な責任は己にあることを明言している。多くの指導者同様、孤独を味わい、最後は一人で決めたようだ。

 今度の決定を耳にしたとき、ああ、日本にも本格的な指導者が登場したと思ったものだ。言い訳がましい監督であり、自らが可愛ければカズを残す方が得策だというのは自明である。敢えて、そこを断ち切るところが、これまでとは違う新しい何かを予感させる。

 もう一つ、なるほどと思ったのは、落選者の処遇である。裏方として大会に連れていくことも温情主義では可能だが、動揺が大きく、代表選手への影響が大きいという理由で即刻帰国させた。ここでも評価尺度は一つ。私情を挟まず、チームへの影響度合を考えた。

 一連の行動は、日本代表がゲームを意識し、勝ちに行こうとする現れであり、今後の試合が期待される。一方、日本代表を引っ張り続けたカズは、現役としてのもう一段の踏ん張りによって、プレーイング・マネジャーとしての将来も見いだせよう。「岡ちゃん流」一辺倒ではなく、「カズ流」を温存できるか、選択肢を増やす努力が日本的経営でも課題となりそうだ。