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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年9月11日付
こちら情報局

リスク

「リスク〜神々への反逆」の邦訳が出版された(日本経済新聞社刊)。96年に米国で発売された原著は、既に15万部以上が売れ、二年半の歳月を経て、ようやく日本語版が書店にならんだ。それでも外国語版への翻訳は日本語版が世界初であり、これからドイツ語、フランス語、オランダ語、ハンガリー語、トルコ語、中国語、韓国語版が出版される予定のようだ。まさしく、世界のベストセラーであり、経営学の普遍的テキストとなる予感がする。

 ここで述べるリスクは「投資リスク」。確率や統計に関する専門書は多々あるが、正確な記述はそのままに、豊富な事例と最新の教訓を織りまぜ、平易に解説したものは少ない。ここでは、不確実な将来に対し、人類が如何に意思決定をサポートする理論を構築してきたかが時系列順に記されている。

 例えば、トランプは、いかさまを防止し、自らの手の内がゲーム相手に伝わらないようにするため、「顔が上下に二つある」デザインと「角を丸めた」スタイルになったことなどは、ふだん何気なくゲームに興じるものをも納得させる。

 不幸にもバブル崩壊からの復活過程でもがき苦しむ我が国にとって、示唆深い記述は続く。『リスクの語源はイタリア語に由来し、「勇気を持って試みる」という意味がある。リスクは「運命」というよりは「選択」を意味する』。過去の運命ばかりに目を奪われるのではなく、将来の選択可能なシナリオを検討すべき時なのだろう。

『ギャンブラーは、赤とか7とかに賭けていると勘違いしているが、実際には時間に賭けているのだ』『敗者は短い時間を長く見せかけようとし、勝者は長い時間を短く見せかける』。勝者も敗者もオッズ(賭け率)が変わることを恐れているからだそうだが、どうりで国難の今、議論が先に進まない訳だ。