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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年10月16日付
こちら情報局

金融通貨庁

 国内での金融自由化対応の一つに、一般事業会社が保険子会社を設立する「キャプティブ」なる戦略的手法が注目されている。アジアでこの戦略を導入できる地域としてはシンガポールが有名であり、日本からは大手自動車メーカーや航空会社、電機メーカーなど数十社が設立に出向いている。

 さて、意見交換と情報交換でシンガポール金融通貨庁(MAS)を訪れたときの話。事前のアポにも係わらず、入口のチェックが厳しい。各自の名刺の提出が求められ、名簿上の個々人の名前を名刺と照らし合わせた結果、一人一人に一枚ずつ磁気でフォーマットされたIDカードが手渡され、指定されたフロアのみへの入退室を許可された。

 シンガポールは、自由貿易拠点、アジア金融拠点としての自由闊達なイメージと、厳格な規律を重んじる清潔な国家としてのイメージの双方の顔が交差する国でもある。 冒頭のキャプティブにしても、同国は、より柔軟な対応を可能とするカリブ諸国とは一線を画しており、自由は自由でも一定の範囲内での自由を保証し、グレー・ゾーンに対しては、柔軟な発想を良しとしない「不正排除型」で知られる。厳しいと言えば、厳しいのだが、厳しい中にも初心者を暴走させない、「自動車教習所」的な規律が存在する。

 このあたり、日本の大部分の役所では、きちっとしたスーツ姿で、顔写真付きの証明書を提示しさえすれば、問題なく入省を許可される。開かれた省庁を目指し、誰でも入省できる「公開性」を大事にしていると担当者からのご説明を受けそうな気配なのだが、何か釈然としないものがある。

 各種賄賂や天下りへの便宜供与を強要するなど不祥事続きだが、開かれている役所として自らの不正を正す姿勢が重要である。