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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年11月13日付
こちら情報局

中台両岸関係

 中国側のミサイル実験での交渉中断から三年、ようやく両岸の関係改善に向けた対話、いわゆる「辜汪会談」が再開された。

 台湾側の代表である辜振甫理事長は、親日派で知られる。単身乗り込んだ上海での会談後、台北でゆっくりされるのかと思いきや、本人は、伝統文化保存のためにと日頃支援している京劇団を引き連れ来日。東京で三日間の公演活動を行った。同公演では、本人自らも諸葛孔明の役を演じるという噂を聞きつけ、ファンの一人として応援に駆けつけた。

 初日に彼が演じたのは、三国志の「空城記」。攻めてくる敵将に対し、守る側が城門を開け、宴席を設けて敵陣を迎え入れる作戦に出る。これに対し、大軍を引き連れている敵国の大将は、威風堂々としている相手方指揮官に、何か策略があるかも知れないと、次のアクションを取れず、やむなく撤退するという内容である。

 時期がちょうど両岸関係の改善に向けた対話再開の後だけに、何か特別なメッセージを含んでいるのかと思いながら鑑賞していたら、その直後、ご一緒させて頂いた国際会議(アジア・オープン・フォーラム)での記者会見の席上、本人から行間の説明を頂戴した。

 両岸交渉は「空城記」の精神で武力を使用せず、対話を通じて困難な事態に対処するという。そういえば、別の日に演じたテーマは「借東風」。多くの皆さんからアイデアを拝借し、中台交渉の難局を乗り越えたいとも読みとれる。

 同会議には、台湾のメディアも多数参加。通訳ミスからいらぬ誤解を交渉相手に与えてはならないと、敢えて流暢な日本語を使わず、説明は北京語で行われた。この話、ボキャ貧を恥じることなく公言し、国内ばかりに気を取られ、世界への影響を過小評価するのとは大違いである。