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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年1月8日付
こちら情報局

書生時代

 記憶が風化するのは、加齢のせいなのか、一年前の元旦に何をしていたのかが思い出せない(笑い)。特別のイベントも無かったようだし、寝正月だったのか。いやそれにしても一時でもじっとしてられない性分からすれば変だなぁと日記がわりに書き込んでいるカレンダーをめくってみると、昨年五月に上梓したインターネット関係書籍の執筆でうなされる毎日を過ごしていたようだ。よっぽど辛かったのか、自ら一年前の記憶を消し去ってしまっていた。

 そういえば、筆者には、もう一つ消し去りたい記憶がある。それは大学院時代の様々な出来事である。いつか落ち着いて当時を振り返れる時が来たら良いなぁと「書生時代」なるタイトルまで用意しているのだが、今でもプレッシャーがかかっている時など、夜中に当時の悪夢にうなされて飛び起きる。すさまじい経験をさせて頂いた。

 結局、象牙の塔というのだろうか、古いしきたりを重んじる学問の世界よりも、実務の世界が自分には適しているのではと、無謀にも求人広告のスペースが最も大きかった証券会社の経済研究所の門を叩き、さらに発足を目指すシンクタンクの経営コンサルティング部門へと渡り歩いている。

 実は、昨年末、記憶の彼方に追いやった筈の大学院時代の知人から突然連絡を受け、双方多忙を極めるなか、電子メールでの文通が始まった。その相手の方は筆者のその後を知らず、オフィスでアジア関連のビジネス誌を閲覧している際に、突如見覚えのある顔をみつけ大声を出したらしい。

 直接逢ったり、電話で話したりとダイレクトに接触することも可能なのだが、電子メールに潜むデジタル性とアナログ性の両立が、時代を越えた会話を可能にするらしく、直ぐには逢わないのも一計かと考えている。