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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年3月5日付
こちら情報局

中途採用考

 今年もまた学生の就職シーズン真っ只中であるが、企業人事の世界では最近流行の形態がある。中途採用による即戦力を期待するというもの。筆者などは多少状況が異なるものの、大学以降の最初のサラリーマン生活からして大学院博士課程中退(社会的に通用しないスキル)での入社であり、現在のシンクタンクも発足時に中途での参画である。

 そういえば、最初の証券会社系の経済研究所の最終面接では、かなり突っ張って東大批判を繰り返し、たまには変わり者を入社させた方が企業体質は改善し、競争力がつくと力説した。その後運良く入社し面接担当の取締役から「実は僕は東大卒なんだよ」と聞いて、この会社での出世はもうだめだと自分に言い聞かせたものだ(笑い)。

 その中途入社の時期もかなりいかがわしく、三月入社であれば、その直後の四月に配属予定の多くの新卒よりは先輩社員に親切にしてもらえるだろうと考えてたりした。合格通知は一月に頂いていながら、二月はスキーシーズンと勝手に解釈し冬山に一ヶ月こもったため、すっかり日焼けして出社し、人事担当者を驚かせたものだ。

 そんな古巣を懐かしむ筆者が嘆き悲しむのは、新卒を旨く教育してくれる名門企業が相次ぎ新卒採用の見送りを発表し、中途による効率化を目指していることだ。

 市場参加者全員が中途の即戦力を求めることは、その即戦力を養成してくれる有力企業が存在しなくなることを意味する。

 さらに問題なのは、一部の中途採用者らは、自らの理想を追い求め、高付加価値企業を転々とし、独善的で我侭な側面も有することだ。求める企業側と言えば、効率一辺倒の中で、短期的な収益性のみに目が奪われる。新卒と中途採用のバランスを考慮しないと組織の脆弱性が拡大するのは自明だ。