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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年3月19日付
こちら情報局

ダイオキシン騒動

 ダイオキシンを巡る騒動がくすぶり続けている。裸の王様であることを指摘した正直な子供が先週来とがめられているのだ。

 いつものことなのだが、担当大臣は陳情者の味方とばかりに、農作物を受け取り、安全宣言を行った。初期段階での沈静化を図ることが悪いとは言わないが、先進国の標準的な数値よりもかなり幅を持たせた国内のダイオキシン濃度の基準値について、科学的な根拠が充分に示せない状況での、とりあえずの「大丈夫です」という言葉に、どれだけの国民が納得するのか、甚だ疑問である。

 今回の騒動では、主役はほうれん草だったため、さすがにカイワレ大根を頬張った菅直人厚生大臣(当時)のようなパフォーマンスはないだろうと思っていたら、数日後の首相官邸のお昼に急遽、山盛りのほうれん草がお浸しとしてテーブルに飾られていた。

 テレビに映し出されたその分量は、通常私達が食べるであろうものをはるかに越えており、「安全性アピールとは言え、大げさだなぁ」「政府首脳は命がけだ」と感心しきりであった。見ている方としては、その後、食べきれなかったほうれん草はどう処理されたかの方が気になって仕方がない。

 さて、今回のダイオキシン騒動、番組の表現が適切さと慎重さを欠き、農家の皆さんに迷惑がかかったことは後日同局の番組内の検証で多くの国民も理解した。一部議員が国会にテレビ朝日の社長を呼んで、散々説教をしていたが、相手が違うし、国民の長期的な利益に叶っていない。

 「リスク・マネジメント」という学問では、この場合、行政はリスクの存在を伝播したマスコミを糾弾するのではなく、発生の芽そのものを摘み取るための処置を行うべきだと説いている。規制すべき相手が違うことは自明である。