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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年7月2日付
こちら情報局

戦艦バウンティ

 久々に日曜日のNHK教育テレビで「世界名画劇場」を堪能した。字幕スーパーで悠に3時間を超え同番組が終わったのは夜中の1時。

 舞台は十八世紀末の英国戦艦バウンティ号。タヒチからジャマイカまで「パンの木」なる苗木を運ぶため英国を出帆。艦長は任務を忠実に全うし、遅れがちの日程を乗組員への過酷な労働で補おうとする。そして、徐々に船員が反発し対立を深めていく。

 物語の中盤、ようやく到着したタヒチでは、艦長はリーダーとしての孤独を貫き、一方反発していた船員は暫しの息抜きを手にする。

 その後、最終目的地のジャマイカへと急ぐのだが、商品である「苗木」に与える水を確保するため、乗組員の水の使用を制限した。「ノルマ」の必達を優先したのだ。

 結局、艦長のマネジメントに疑問を抱いていた一等航海士と脱走を試み処罰を受けていた一部の乗組員が反乱を起こし、艦長は戦艦を追放される。漂流を続けながらも命からがら英国に戻り、艦長は自らの窮地を訴えたが、海軍省のトップは厳格な規律の運用の前に「人道的な紳士」であることこそが海軍の伝統だと諭した。

 一方、反乱後のバウンティ号でも新艦長となり組織の命令系統を維持するため孤独なリーダーとなる「元一等航海士」と彼に従った反乱船員の間に軋轢が生じ、最後は悲劇で終幕となる。

 実はこの映画、経営戦略のケーススタディとしては非常に良くできている。バブル崩壊以降のリストラと安易な起業ブームへの警鐘となるのではと考えたのだ。

 昨今多くの日系企業では効率経営を標榜し、個人毎のノルマを厳しく設定したため、組織の将来を悲観した経営幹部候補の離職が目立つ。企業も社員も先送りされたリスクが双方にとって不幸であることには意外に気がついていない。