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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年8月20日付
こちら情報局

あの金で...

 「あの金で何が買えたか」(小学館刊)。

 最初は、タイトルにピンと来て、次は挿し絵が綺麗だとの思いから、パラパラとめくった。一日おいて、タイミング良く某出版社の編集者との話題にのぼり、ああそうかあれは村上龍氏の作品かともう一度手にし、コンセプトに共感したので購入した。

 ピンと来たのには理由がある。「あの金」と言われて閃いたのだ。そう。この本は、バブル破綻以降に公的資金を投入した或いは債権者が放棄した金額で、一体何が買えたのか、有名な商品を例にあげ、分かり易い挿し絵で、我々が気付かずにいたモノの値段を示唆しようとするものだ。

 著者のスタンスは、「はじめに」に該当する部分に『知るということ』という標題が付いていることからも窺い知れる。ニュースで読み上げられる天文学的な数字を、ある程度イメージできるようにという目的で本書(絵本)が構成されている。

 購入後に改めて眺めてみると、事の重大さと金額の凄さが理解できる。挿し絵の優しさに比べ、私達の納めた税金で購入可能な商品群の凄いこと凄いこと。

 アジアからの留学生援助(3200億円)。これがマンション建設最大手に対する債権放棄額とほぼ同等なのだ。

 実際には、どこそこの債権で何が買えるかの足し算をする必然性はなく、編集サイドもその辺りはわきまえている。ちゃんと買い物には「おつり」がついてくる。

 「映画タイタニックを25本製作(6000億円)」する必要もないし、「ニューヨークタイムズ社の買収(7800億円)」などは日米摩擦を生じさせかねない。 しかし、こうした非現実的な事例を出さなければ、実感できないこと自体、バブルとも言える。