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勝手にAERA応援団

裏コピーの裏話
勝手に応援団はレベル高いぞ

この記事は朝日新聞社の許諾を得て掲載したものです。
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 6月第2週の月曜日、少し遅めの朝、場所は東京近郊の電車の中である。女子大生風の二人連れが乗り込み、ほんの一瞬上を見上げ、一人が『涙のカズだけ、強くなれるよ』と岡本真夜のフレーズで軽く口ずさむ。もう一人が、先週は『ハビビ、ビビビ』だったよと続ける。

 AERAの中吊り一行広告を見た乗客の感想である。もちろん、駄洒落の存在も、掲載車輌位置も先刻承知の上での行動とお見受けした。おお、ここまで来たかと痛く感激し、さっそくAERAの駄洒落担当者に電話で報告。

 このところAERAが大胆だ。駄洒落に本腰を入れ、とうとう「AERAコピー塾」を開いてしまった。第8回AERA大学生セミナーのテーマはなんと「駄洒落」。東京のホテルニューオータニに全国の大学生を集め、翌日まで泊まり込みで「駄洒落」を伝授した。冗談みたいなこの話の成果は、AERA6月15日号の「編集長敬白」で紹介されている。『焼肉接待 MOF・タン・カルビ』がゲストの俵万智さんらの称賛を得ていた。





 ところで、あの駄洒落の担当者をサポートする「句会」なるものの存在をご存知だろうか。とあるホームページ上に「勝手にAERA応援団」なるコーナーが存在し、毎週対抗駄洒落を発表していることを。

 そこで、まず部外者の私がなぜ創作活動に係わり始めたかを説明し、皆さんの参加を呼びかけたい。もう一つのコピー塾の始まり始まりである。

勝手に作り勝手に送りつける

 シンクタンクに身を置き、経営戦略コンサルタントとして多忙な日々(?)を過ごす筆者にとって、情報との壮絶な格闘が日課となっている。どんなに深酒をしていようが、毎朝5時30分には、目が醒め、新聞配達員の聞き覚えのある足音にベッドを這いずり出し、朝の新聞チェックが始まる。自宅で複数の新聞に目を通す作業は、仕事とは言え、大変な労力を要する。

 そんな中、いつの頃からか(何年も前のことだが)、月曜日の朝日新聞を心待ちにするようになった。なぜ月曜日か。それは中吊り広告でもお馴染みの「AERA駄洒落」にいち早く目を通すことができるからだ。

 もともと、新聞社の整理部に配属されれば、気のきいた駄洒落の一つや二つは要求されるものである。が、何故かしら、AERAのそれは、ひどく「ずっこける」代物であり、あまり上手とは言えない。漫画のたぐいでいくと、「ヘタウマの世界」を実現しているような感覚を覚えた(ちょっと誉め過ぎかな)。

 そんな身体中の力が抜けるようなAERAの駄洒落は、神聖な月曜日の早朝の、まぁ良く言えば過労死を防止するガス抜きとでも言うのだろうか。皆さんも新聞の広告や、車内中吊広告でガクンとひざの力が抜けた経験をお持ちだと思う。

 さて、そんな筆者に転機が訪れたのが、ちょうど今から1年半ぐらい前のこと。前年の年末に出させていただいたアジア関連本が少し売れて、筆者の活動がAERAで紹介されることになった。著者が「謎の外国人」だったことが物珍しかったのか、「超日本通」なるタイトルを頂戴した(97年2月24日号)。そのときの担当者が、何を隠そう今をときめく「ニュースステーションの菅沼キャスター(当時副編集長)」である。

 その後、菅沼氏と取材を兼ね付き合う中で、お互いこんな性格だからよかんべとインターネット上の個人ホームページ「Lin's Bar」(現在のURLは、http://bar.cplaza.ne.jp/)」にて「勝手にAERA応援団」なるコーナーを始めることを一方的に通告した。これは時事問題に絡め当方が勝手に作った駄洒落を勝手に送りつけて、勝手にAERAの応援をするというものである。数回作品を送る中で、幾つかの「名コピー」が編集長の目に止まり、AERA97年6月9日号の「編集長敬白」に「小池にはまってさぁ大変」は、『小池容疑者に多額の融資をした第一勧銀を、童謡風に皮肉ったものです。』と紹介されてもいる。(注:残念ながら、これは当方スタッフによる応援作品であり、筆者のオリジナルではない。念のため。)

 菅沼氏は、さすが短期間で名物キャスターに昇格した大物だけに、即答こそ避けたものの、勝手にやるのだからよかろうと言葉を濁しつつ、まぁついては友好的にということで、編集長と駄洒落担当のもう一人の副編集長を紹介してくれた。それが「師匠」である一色氏である。かくして、筆者は、数少ない「句会」メンバーへの正式参画を承認されたのである。

 ここだけの話、表面上は「応援団」と称しているものの、担当者(師匠)の内心は穏やかでないと察する。第一、良い案を思いついても、同じネタならばプロとしてのプライドがあるであろうことから、同じネタを使う訳にはいかない。

 さらに、筆者の「勝手にAERA」コーナーが評判になればなったで、出来不出来が批評される。もっと凄いことに「素人」の怖さ、仮に当方にモラルが存在しないならば、幾らでも「後出しジャンケン」ができるということである(ふふふふふ)。

 でも、それではあんまり可哀想ではないかと考え直し、事前に当方の作品を通告し、且つだぶりの場合でも『知的所有権はいっさい主張しない』という紳士条約を締結した(これも当方の勝手な通告)。インターネットの速報性からは、AERA発売前に当方作品を公表できるのだが、月曜日の発売までの数日は、公表を控え、担当者のプレッシャーを少しでも和らげ(笑い)、人権に配慮したのである(何処が?)。かくして、毎週、駄洒落をファックスにて送付する日々が昨年4月以来続いている。

 勝手にやると言っても、数打てば当たる方式では洒落にならない。そもそも、AERAの駄洒落は、ずっこけ方が「ありゃりゃ」というか、少し間が抜けていて、何処か懐かしさというか、「ふふふ」という笑いがこみ上げる、或いは「そういう言い回しを使うかぁ」というものが多い。さらに言えば、担当者の癖なるものも存在する。

 そこは、現役の経営戦略コンサルタント。「データ・オリエンティド(数値で表す、結果が全て)」とでも言うのだろうか、過去の駄洒落をデータベース化し、パターン分析を試みることにした。幸い、シンクタンク勤務であるため、情報には事欠かない。過去の朝日新聞の縮刷版を引っぱり出し、月曜日のAERAの広告部分を片っ端からひっくり返しては、記入していった。そうしてようやくどうにか、数年前のものを含め、完全なるデータベースは完成。

敵を知るためパターン分析

 以下は、秘中の秘。これも何かのご縁だから、皆さんにこっそりお教えしよう。昨年一年間の傾向と対策は以下の通り。

(1)名前もの

 有名人の名前を分解する、追加する、ちょっとひねるなどなど。例えば、「この風がいいね、ハラダ記念日(98/3/2)」は、ジャンプの原田選手とかけている。「オッカダびっくりフランスへ(97/12/1)」それは、おっかなびっくりだろうが(突っ込む程のものではない、もう少し辛抱して読んでほしい、解説する私も辛い)。「甘かったですね、サトウさん(97/9/21)」。うーーん、ここまで来ると、コメントができない。

(2)歌シリーズ

 歌謡曲や童謡を持ってくるパターンも多い。「ピチピチしゃぶしゃぶ、ランランラン(98/2/9)」これは当方にてボツにしたネタであり、そう詠むだろうと見ていたもの。もう一つ、「雪やコンコン、電車は来ん来ん(98/1/26)」。首都圏は大雪で中央線や京浜東北線が夜半まで大混乱。実はその前の週に「雪やコンコン、電車は混む混む」と詠んだのだが、知ってか知らずか師匠は採用。当方としては、電車は来たのだし、混んでいただけとの事実を鑑み、「来ん来ん」は誤用と反論したい(そんな杓子定規なものではないけど...)。前掲の「小池にはまってさぁ大変」が編集長の編集後記でも取り上げられたように、童謡はAERAらしい安心感があるようだ。

 一方、年を感じさせるのが演歌シリーズ。「横浜たそがれ、ホタルの光(97/9/15)」横浜ベイスターズが優勝を逃した瞬間を五木ひろしで表現したかったようだが、一行広告とは言え、広告なのだから読者層をもうちょっと考えること勧める。具体例で恐縮だが、こんなのはどうだろうか。「否定して、否定して、あんたモニカ」。クリントン大統領のセクハラ疑惑。桜田淳子の方がまだ「イケテル」。

(3)古典的テレビネタ

 テレビ世代の師匠だからか、やたら昔のテレビタイトル・ネタが多い。「ホンコンさん、いらっしゃい(97/7/7)」とやってもうたが、きっと考えながらも「オヨヨ」と桂三枝師匠の真似をしていたのでは。私が香港返還を詠んだのは、もっと綺麗である。「漢字の国だけに返還ミスはなさそうだ」。

 年齢で言うと師匠は、昭和40年代にご幼少だったのか、その当時のネタも多い。「イヤハヤ、あっと驚くムツゴロウ(97/5/19)」。殆ど凍りそうなパターンだが、知らない読者はとにかく両親とかの世代に聞くこと。

(4)英語ネタ

 今年の正月明けは、「アンハッピー、もうイヤー(98/1/12)」。こっちこそ、もう嫌。それでも、横文字を分解した秀作も散見される。「アナ不思議、ワカサなのに老害(97/5/26)」。ご存じ、全日空の若狭社長の解任劇なのだが、ANAを使ったのは憎い。が、当方も、そう来るだろうと読んで、同じ週に「全日空は若さが足りない」「若さゆえの乱気流」と詠んでいる。実は、「勝手にAERA」の本領発揮はこういうところにある。ついでに、翌週、筆者はもう一句「復活人事で、穴埋めよ」と普勝社長を差し戻したらとひねってみたりもした。このネタ、「師匠」は相当気に入っており、最近も「長くやりますと、アナがあきます(98/4/27)」。こちとら負けてません。読まれてますよパターンを。同じ週、「アナ他のパイロットは大丈夫?」。バトルはまだまだ続きそうだ。

(5)諺シリーズ

 分析結果を載せるべきかどうかを迷うのが、「捜査調査も彼岸まで?(98/3/30)」。この手のものは、調べればまだ出る。きっと出る。駄洒落初心者は、このあたりがお勧めだ。

(6)師匠の個人的関心事

 何せ、師匠(駄洒落担当者)を知っている当方としての最大の攻撃法は、師匠になりきること。子供がいて、住宅ローンを抱える勤労所得者像からは、経済不況を読む機会も多そうだ。

 「私は苦ローン人間です(97/3/17)」「賃下げは給与の一策(98/3/9)」。あとは、野球ネタも多い。「ナイフよりフォークで勝負です(98/4/13)」「ニッポンのアンパイヤ、心配や(97/6/23)」「セーホ、アウト、チェンジ(97/5/12)」

大事なのはわかりやすさ

 分析していてもキリがないので、あとは実戦のみ。最近「勝手にAERA」にも少しづつではあるが作品投稿が増えてきた。まだまだ、レベルは高くないが(というか、高尚過ぎて作品としてはボツ)、幾つかガイドラインを挙げておこう。

(1)かぶること

 要するに、師匠のパターンを読んで、先に投稿する。応援するのだから、そのぐらいはしよう(でも応援にはなっていないけど)。「猛暑っとで夏本番(97/7/21)」に対抗し、同じ週に「猛暑っと涼しくならんのか」を送ったところ、かなり慌てたらしい。

(2)旬なこと

 その週か前の週に発生したことがベスト。最近だと、「ハビビ」とか「松田聖子」「インドの核実験」などは旬である。「歯医者復活」「インドーを渡す」などが良い。これからは、「梅雨」「夏休み」あたりがテーマだろうか。もちろんサッカー関連で、「岡ちゃん」とか「中田」はおさえるべきだろうし、「円安」が来るだろう。

(3)脱力感

 かっくんと気力が失せるやつ。それでもって風刺が効いているのはベスト。とにかく綺麗過ぎないこと。「笑点」ではないのだから、あまり気張らない方が良い。

(4)新たなパターンを作ること

 師匠もそろそろネタ切れの感がある。みんなで応援して、ああ、こういうパターンもOKかというのを教えてあげたい。「勝手にAERA」で開発したものとしては、語尾に凝ったものを幾つか用意している。方言とか、幼児語とかである。例えば、「NTTはナンバーしようとやー(98/3/16)」や「大統領は君でちゅん(98/3/9)」などは、秀作と自負している。

(5)分かり易さ

 もっとも大事なのは、すぐに分かるもの。これが基本。当方のホームページに投稿して来た人で、解説付きのがあったが、コレでは駄目。

なにはともあれ、ホームページを参考に、「応援団」のメンバーとして活躍して頂きたい、秀作については、「師匠」にお届けすることを約束する。「皆のAERA、駄洒落担当は読者から」を目指し、今週も「静かなる市民革命」は続く。

(了)

「朝日新聞社」1998年7月10日号AERA10周年記念臨時増刊号
「腰くだけ発想法 アエラ一行コピー」pp.44-49