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こちら情報局


「言いたい放談」
『東京新聞』
03年04月11日付
こちら情報局

ユビキタス戦争

 テレビで初めて生中継されるイラクの地上戦にびっくりされた方も多かろう。映像を見ても戦争の実感がわかないという声をよく耳にする。対照的なのが、本年度アカデミー賞の監督賞、主演男優賞を獲得した「戦場のピアニスト」。
 
 リアルとバーチャルがクロスし、現実の境目が見えなくなっている今だからこそ、映画の表現力にリアルさを感じる。戦争の悲惨さを改めて「実感」できる良い機会。お勧めだ。
 
 今回の戦争を筆者は2つの側面から「ユビキタス戦争」と呼んでいる。いつでも、どこでも、誰とでもの状況を「ユビキタス」と称するのだが、米英軍はまさにバグダッド市内の狙った場所を思いのままに攻撃する「ユビキタス戦争」によりイラク指導部に圧力をかけている。そしてそれを追いかけるカメラを通して、世界中の人々が、24時間その様子を見ている。
 
 そうした構造のなかにあり、メディアが持っている実況機能と編集機能を危なっかしく感じている。
 
 表現する側としては、「劇的」を期待しているのだろうが、中立的立場で淡々と伝えることが重要であろう。
 
 イラク侵攻初日のホテルで、ミサイルの衝撃に「うぁあああ」と叫ぶ記者の映像は、戦況の動きが少ないと見るや、さりげなく冒頭に挿入したりする。効果絶大だが、少なくとも録画と断る配慮がないと、ニュースソースとしての信頼をなくすことになる。
 
 また、戦争に絶対安全地帯などないのに、バグダッド市内のホテルがメディアの拠点となり「対岸の火事」的な撮影が続いたため気になっていたが、先日ロイターのカメラマンらが犠牲となった。
 
 ちょうど隣室は、ジャパンプレスだったので、銃撃直後に救出に向かい、他社のカメラマンらにこんなときは撮るな、救出活動に加われと怒鳴っている場面が流され続けた。メディアに携わるプロ以前に一人の人間としての本能なのであろう。
 
 鬼の形相のような佐藤代表の直後の中継。銃撃者への怒り。撮影を中断しての救助・・・。でも良く考えると、銃撃直後の映像は誰が撮っていたのだろう。