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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
98年12月11日付
こちら情報局

決断なき経営

 山一証券が自主廃業を発表してから早一年。大蔵省に営業停止届を提出した経営企画室の中核スタッフである石井茂氏が『決断なき経営(日本経済新聞社)』なる書籍を上梓し、山一崩壊に至る経緯を総括した。

 この手の書籍、多くの場合、ややもすると出版社の売るがためのマーケティング戦略に乗り、微に入り細に入り、会社批判を展開することに終始しがちだ。著者の石井氏の元同僚の中には、そのような事態を憂慮し、出版を再考するように進言した者もいたようだが、これらは杞憂に終わっている。

 著者は経営企画という職務を遂行してきた中間管理職らしく、毅然とした態度で、何が悪く、何時の時点でしくじったのかを総括している。

 全体を通して理解できたのは、危機的状況が発生した時の経営層の意志統一と窓口の一本化の重要性である。最後の最後の局面でも、義勇に駆られ、「水滸伝」宜しく、担当外の折衝に動いてしまった一部役員の対応が、外部からは「意志決定システムの混乱」として受けとめられたようだ。

 示唆に富むのは、最終の二章、「企業風土が会社を壊す」と「いま企業に求められるもの」である。著者の一連の経験からは、戦略的示唆として「状況を正しくつかむ」「主体性を確立する」「方向を明確にする」「経営者が自己変革の意志を持つ」が掲げられている。

 この中で「経営者の意志」が最も難しく、経営者がより高い志を持つことが重要だと述懐している。行間からは、この本どうやら政治家にも一言お願いしているようにも読めるのは気のせいか。

 『現状を変えたがらない傾向は、年齢を重ねるほど強まる』のだそうだが、「自自連立」も世代間闘争ではないことを願わずにはいられない。