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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年1月1日付
こちら情報局

 「ウサギ、ウサギ、何見て跳ねる」今年は、景気回復へのきっかけとして、少しで良いから、私達が上向きに跳ねてみたらどうか。え?強い指導者はいないし、誰が手伝ってくれるのかですって?他力本願ではなく、個々人全員が自らの力で跳ねてみたらどうか。元旦に、こんな提案をしてみたい。

 よくよく考えてみたら、九十年代に入ってからずーっと、私達は「待ちぼうけ」をしていたのではないだろうか。高度成長時代を経験し、オイルショックを二度乗り越え、切り株にすわって一休みでもするかと思っていたら、たまたま突進してきた「野ウサギ(バブル)」に踊らされたのではないだろうか。

 兎に関するイメージは必ずしも良いものとは限らない。「うさぎとかめ」では、才能のある兎が地道で努力型の亀に、油断して木陰で一休みしている間に抜かれ負けてしまった。

 でもまぁ、今年の干支は兎。野暮なことは言わず、兎もゴールできたのだし、ここはトレーニング・コーチ(戦略参謀)が居なかった兎を責めるよりは、マイペースで最後までやり通したかめを誉めるに留めてはどうか。個性の時代、それぞれが自己実現に向け、あらゆる方法を模索していくプロセスを暖かく見守ることも大事である。筆者ならば、多少スタートが迅速な兎の方が、世界的な情報戦を制し、良い理解者(資金提供者)に支援され、インキュベーション(事業の立ち上げ)に成功する可能性が高いと評価する。

 そういえば、兎が時間の概念を大事にする点では、「不思議の国のアリス」の兎が印象深い。道に迷いながらも帰路を急ぐアリスに、要所要所で時を告げる。今年は時間概念を大事にしてはどうか。段取りや根回し、最終目標の確認などをボトムアップで行うのは、日本の十八番(おはこ)ではあるものの、世はインターネットの時代、ネットワークの時代である。いつまでに実施し、どこまでを成し遂げるのか、足りないヒト・モノ・カネをどこから確保し、どのように行うのか、私達の一挙手一投足が世界から注目されている。もちろん、日本だけが幸せになるのではなく、アジアに位置する唯一の先進国として、経済停滞が続くアジア諸国の面倒も見なくてはならない。玉虫色の回答や言語不明瞭の所信表明では済まされない、有言実行の年である。

 あ、そうそう。「兎の目」は赤い。今年は、仕事のしすぎには留意しようではないか。この件に関しては、他人事でなく、筆者も反省多々ではあるものの民間企業と官庁ではいささか問題が異なる。官庁街などは、盆暮れ問わず、朝方まで煌々と明かりが灯っている。新宿不夜城とは言うモノの、こちらにももう一つの「霞ヶ関不夜城」がある。帰れない程の仕事を抱えているならば、民間に業務の一部をアウトソーシングして、戦略策定や意志決定そのもののために有意義に時間を使って貰いたいものだ。但し、間違っても『人出が足りない』とは言って欲しくない。だいたい一人の人間がコントロールできる人数はせいぜい数人。増えた部下の数だけ、意志疎通のための会議が増え、根回しのための時間が増加する。抱えるスタッフの数、コントロール可能な予算の総額で自らのパワーを誇示する時代ではない。

 そうそう、最初にお願いした「跳ねる兎」。アフリカの砂漠では、危険を察知すると、立ち上がって鳴きながらコミュニティの仲間に知らせる鳴き兎がいると聞く。私達一人一人の監視と叱咤激励が、政治を動かし、豊かな未来を約束する。とかく暗くなりがちな世紀末思想を追い払い、新世紀思想を固める良い一年にしよう。