トップへ


こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年1月15日付
こちら情報局

二十歳のころ

  本日多くの方が成人式を迎えられたことを大変喜ばしく思う。苦労を重ねたのは、親御さんであり、祝うべき主体はどちらかというと皆さんではないかもしれないが、「大人の世界にようこそ」というところか。いや祝うというよりは、むしろ皆さんが国や社会を担う責任ある立場についたことに対する敬意であり、高齢化社会を迎える日本を支えていく先輩世代から「今後とも宜しく」「頑張ってね」という心境だろうか。

 さて、タイトルの「二十歳のころ」は東京大学教養部で立花隆氏が開講していた「調べて書く」ゼミナールの共同作品として最近上梓された(新潮社)。ゼミの学生らが有名無名の老若男女六十八人の青春模様を突撃取材した成果物である。成果物としているのは、取材アポで拒否されたものや出版等を前提にすることを察知して取材後に断ってきたものなどを含めると、その作業量は優に二倍は越えるものだからだ。

 企画の妙と言うのだろうか、同書が面白いのは、人工知能で言うところの「再帰的定義」がなされている所である。二十歳前後のインタビュアーが、自らが関心を持つ人物の二十歳の頃を取材し、自分自身の今後に重ね合わせる作業が繰り返されている。

 もう一つの読み方は、時代考証とでも言うのだろうか、それぞれの時代の「二十歳の頃」を歴史的に検証できることである。何時の時代にも勉強漬けの学者タイプの若者がいて、無目的に放浪していた若者がいる。その彼らが、各方面で頂点に立ち、ゼミ学生が羨望の眼差しでインタビューを敢行するような成功した人生を過ごしてきたわけだが、共通して伝えていることは「若者は失敗を恐れずに、前進可能だ」との言葉である。人生一度きり、大いにチャレンジしプロセスを堪能してほしい。