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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年3月12日付
こちら情報局

SAMの息子

 歌手の安室奈美恵さんがダンサーのSAMさんと結婚、出産を終え、年末の紅白で復帰を果たした。暫く前の後藤久美子さんの時といい、先週の吉川ひなのさんの場合といい、日本も欧州並みに成熟した文化へと駒を進め、多くの選択肢から自分の幸せを求められる時代が到来したと心から声援を送りたい。

 さて、冒頭の安室さんだが、活動を再開し、働くママとして頑張る毎日である。そのイメージはすこぶる良く、若い世代の教祖として支持される。きっと役所が注目し、イメージ・キャラクターに採用するのだろうなぁと思っていたら、旦那のSAMさんが息子と一緒に厚生省ポスターに登場した。

 反省好きの私達は「お父さんでいる時間をもっと」との呼びかけに「そうだなぁ」と瞬間家庭を顧みるであろう。日本のお父さんが育児にあてる時間は一日に十七分。育児の楽しさと大変さを考え、手伝いなさいと諭している。

 確かに、子育てに係わらず、多くの男性が家事を手伝う時間は少ない。女性の負担を減らし、女性の社会活動への参画と復帰を支援することは大事である。が、この話、表現は一見正論なのだが、行間を深読みすると、厚生省の主張は順序が逆なことに気がつく。

 ポスターは少子化対策のために作成している。ということは、少子化の原因は親になる責任を放棄した男の責任でもあり、その先に産ませても育児を手伝わない男性が出産を阻んでいるとも取れる。

 この問題、もう少し話を進めると欲しくても授からないなどに論旨の展開をすり替える輩が出ないのか心配だ。しかし、そもそも産めるのに産まない夫婦は、託児所の使い勝手の悪さや育児休暇を理由としたリストラへの不安を問題視している。見かけのイメージや話題性に頼らず、労働省も巻き込んで、対応するのが先のはずだ。