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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年5月14日付
こちら情報局

誤爆と反日デモ

 NATO軍による中国大使館への誤爆は、北京を中心に各地で学生デモを誘発したが、政府当局者の秩序ある行動を求める声明から、事態は沈静化する方向にある。

 ここでは、時の政策担当者が慎重に次の一手を見極めていることから多くを語るまい。しかし、何故か米国やドイツの大使館などへの抗議と同時に、散発的ではあるものの反日運動が中国各地で起こったことは憂慮すべきと考える。

 浙江省杭州市にある浙江大学では、抗議ビラの取り扱いを巡り日本人学生と中国人学生が揉めた。平和ボケした日本からの留学生には思想的なものなどなく、学生向け掲示板をサッカーのゴールに仕立てて、いわゆるテニスで言うところの「壁打ち」的な行為をしていたはずだ。

 それがたまたま貼られていた「誤爆抗議ビラに記されたバツ・マーク」をシュートの目標としたことから、愛国精神を発揮する数名の中国人学生の目に留まり、もみ合いとなった。その過程で女子学生に怪我をさせたこともあり、留学生寮は一時千人以上の中国人学生によって取り囲まれ、三十名の日本人学生が屋上に追いつめられる事態に発展している。

 誤解であることと謝罪を表明した日本人学生側に「屋上から飛び降りて、自殺して謝れ」と言い寄ったようだ。文化大革命当時の七十年代を想起させる行為であり、一歩間違えれば死者も出たはずなのに、大学当局は、喧嘩を売られたはずの日本人留学生を除籍処分にして事態の沈静化を図っている。

 これに対し、中国との太いパイプを自負する野党代表を始め、国内関係者は何ら動きを見せていないが、三十名の日本人留学生も日中間の将来を担う大事な民間大使のはずだ。誤爆に等しい野蛮な行為に抗議し、国民の生命を守る毅然とした態度を願う。