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こちら情報局


「本音のコラム」
『東京新聞』
99年12月17日付
こちら情報局

李登輝総統

 二週間前に、日本と台湾を中心とした国際関係の研究者の集まりである「アジアオープンフォーラム」に参加し、台湾の台南に三日ほど滞在した。その後日本の代表団とともに、李登輝総統に謁見する機会を得た。

 謁見会場の総統府は日本統治時代の建築物で、煉瓦造りの風貌は東京駅にも通じるものであり、趣きがある。

 来年三月に予定される「台湾総統選」の行方や「国対国発言」などが世界的に注目されていることもあり、日本側マスコミが大挙する会見となった。

 印象的だったのは、他国代表団の場合とは異なり、多くの儀典(プロトコル)が省略されたこと。李総統は京都大学で学んだため流暢な日本語を話すことは有名だが、よほど日本側代表団との語らいが嬉しかったのか、時間をオーバーしての受け答えが続いた。

 日本でもベストセラーになった『台湾の主張』は、当初日本語で語ったものを日本の出版社が原稿に起こし、さらに中国語に翻訳して、まずは中国版から出版された。

 「微妙なニュアンスは多感な青年期に得意とした日本語での表現が一番」という総統のコメントに、日台間の架け橋に生涯をかける覚悟の筆者としては同感するものがあり、こみ上げるものがある。

 隣人でもあり、親しき友人でもある日本の皆さんへのメッセージとして、台湾中部を襲った大規模地震での日本政府ならびに日本国民の援助に深く感謝することを重ねて強調していた。

 90年以降の民主化、産業構造改革では、経済成長のスピードを落とさないよう留意したとのことだが、その経験とノウハウを来年の任期満了後、直接日本で語る機会を作ったらどうだろう。

 李総統本人も一民間人として日本に来ることを望んでいる。